【JAF MATE 1998/04 P6-7 知っていますか?エアバッグ】
エアバッグはどこで開かせるべきなのか
田辺賢治●(社)日本自動車工業会・安全部会保護装置分科会
「こういう場合には開く」「こういう場合には開かない」という境界の存在が、ユーザーの理解を妨げているようです。衝突する角度、スピード、車全体として受けた衝撃力などからエアバッグセンサーがエアバッグの「開く」「開かない」を判断しますが、多くの事故では要素が複数絡みます。境界の部分には「開く」と「開かない」とが両方存在するよう設定しています。だから、似たような事故ケースでAの場合は開き、Bの場合は開かないということが起きます。ユーザーが理解しづらい理由はここにあると思います。
エアバッグ展開と乗員の傷害で、極端な例ですが、たとえば、時速5kmの極低速時の衝突ならシートベルトだけで十分安全でも、時速100kmの高速時の衝突ではシートベルト着用だけでは頭がハンドルなどどこかにぶつかります。エアバッグが展開することで、乗員の傷害を一層軽減できる速度の境界があり、メーカーはそれを考えてエアバッグ展開の条件を設定しています。
デメリットの情報も伝えてほしい
井口尚志●国民生活センター・相談部
消費者からの苦情の約7割が、「衝突したのにエアバッグが作動せず」というケース。作動のためには、衝突角度や速度などの条件があり、必ずしも開くとは限りませんが、「事故の時は必ず開く」と信じている消費者が多いのです。「開かないのは欠陥だ」というわけです。以前、TVCMでエアバッグの派手な宣伝が流れ、衝突実験ではダミー人形は必ずエアバッグに受け止められました。繰り返し見ていると消費者がエアバッグを万能な安全装置と理解してしまうのもいたしかたない内容でした。車の安全装備に関してメーカーは、メリット情報のみ流すのではなくデメリット面も伝えるべきだと思います。薬でたとえれば、効果・効能だけでなく効き目のない場合や副作用まで知らせ、後は消費者の判断を仰ぐのです。また、「SRSエアバッグ」という名称は一般の消費者には理解されていないので、たとえば「シートベルト補完型エアバッグ」などのわかりやすい名称に改めてほしいものです。
【JAF MATE 1998/04 P8-9 知っていますか?エアバッグ】
エアバッグ解除スイッチ導入を巡る騒動
岩尾善明●国際ジャーナリスト
米国は新車にエアバッグ装着を義務づけているが、1月19日から米国のドライバーは業者に頼んで自分の車のエアバッグに解除スイッチを付けたり、回路を切ることができるようになった。ただし希望者は誰でも、ではなく一定の条件を満たしていると政府に認めてもらうことが必要だ。関係者は申請が殺到するのではと心配していたが、2月9日現在1万3100人が許可されたにとどまっている。 装着を義務づけながら一方でスイッチを認めるのは矛盾した話だが、これは近年の一連のエアバッグによる死亡事故に対する苦肉の応急策だ。
連邦運輸省の調べによると、これまで急膨張するエアバッグに打たれて死んだ人は89人。うち50人が子供だった。エアバッグがすでに2620人の命を救った実績と比べると死亡事故数は少ないものの、マスコミで相次いで報じられると消費者の不安は高まる。「エアバッグさえ付いていなければ死ななかったはず」との批判が噴き出し、政府は1年がかりの検討の末、スイッチを認めることになった。
これら死亡事故を見ると犠牲者の大部分がシートベルトをしていないか、正しく締めていなかった、子供は助手席にいた、身長が低くハンドルに接近しすぎていた。そこで、これらの危険がどうしても避けられない人だけには、解除スイッチの取り付けを認めることになった。具体的には、身長が低くハンドルから25.4cm以上離れては座れないとか、何らかの理由で子供を助手席に乗せざるを得ない人たちだ。
希望者が政府に申請すると、折り返しスイッチを付けることの良し悪しを解説した小冊子と必要な条件を記した用紙が送られる。ドライバーがそれに記入して返送し、条件を満たしていれば自動的に許可となる。その許可証を自動車販売店や修理業者に持参、スイッチを取り付けてもらう。費用は240ドル(約3万円)で2時間で終わる。
自動車メーカーや交通安全関係者はおおむねスイッチに賛成だが、実際に取り付け作業をする業者は別。AAA(アメリカ自動車協会)が全米700店を調べたところ3分の2が作業を断っていることがわかった。エアバッグを切ったため死傷者が出た時、裁判沙汰になることを恐れてのこと。政府の許可証はもらえたとしても、取り付けてくれる業者を見つけるのにひと苦労する人が続出しそうだ。
スイッチを付けるとかえって危険が増すと見る人もいるが、すでに2人乗りスポーツカーや後部座席のないピックアップ・トラックにはスイッチ付きの新車が発売されている。これまでのところ問題は起きていない。
今、関係者はエアバッグは正しく使えば心配ない、と消費者教育に懸命だ。「スイッチが必要な人はごくわずか。大部分のドライバーには正しいシートベルトの着用が何より肝心。ハンドルからできるだけ離れて座り、子供は後ろの座席が最も安全
」
【JAF MATE 1998/04 P10-11 知っていますか?エアバッグ】
シートベルトを締めてこそのエアバッグ
この特集のタイトルページ(455ページ)に戻ってほしい。ダミー人形による衝突実験の写真(中央の大きい写真)が載っている。
見ればエアバッグは正常に開いているのに、ドライバーの頭はフロントガラスを突き破ってしまっている。このように、シートベルトなしでエアバッグだけで乗員の安全は確保できない。エアバッグはシートベルトの着用を前提として設計されているからだ。
エアバッグは正確にはSRSエアバッグという。「SRS」とは、Supplemental
Restraint System の略で、「補助拘束装置」という意味。シートベルトで乗員を拘束し、その上で補助的に乗員の安全を確保するものだ。
ところで、アメリカ自動車技術会(SAE)の論文によれば、エアバッグのみの救命効果は18%に過ぎず、 一方シートベルトだけでは42%の効果がある。さらにシートベルトとエアバッグ併用では46%までに達するという。
一方、エアバッグの膨らむスピードは時速100〜300kmと言われる。エアバッグに近づきすぎるのが危険だというのはこの速度のためだ。ドライバーは前屈みになりすぎず、助手席同乗者はシートの先端に浅く腰かけず、またインストルメントパネルに顔や手足を近づけすぎないように注意する。
なお、最近増えてきたサイドエアバッグでは、ドア側に体をもたれかけないことが大事。エアバッグの作動で強い衝撃を受ける危険性があるからだ。
【JAF MATE 1998/03 P39 世界交通ダイジェスト】
アメリカ : エアバッグ 切断スイッチの導入
昨年11月、米国政府はエアバッグに関する新しい規則を発表した。自動車の持ち主で、一定の条件を備えていることが認められれば、エアバッグが作動しないようなスイッチを業者に取り付けてもらえるという内容だ。エアバッグを、“究極の安全装置”として世界でただひとり、装着を法律で義務付けた米国が、その政策を大きく軌道修正したことになる。
米国の車にエアバッグが初めて登場したのは1985年。以来、新車の販売促進の手段として自動車メーカーは積極的に取り付け、政府も後追いする形でまず91年、運転席への装着を義務付け、続いて98年からあらゆる車にデュアル(運転席、助手席双方)エアバッグを義務付けた。97年末現在、6700万台にエアバッグが装着(うち2800万台がデュアル)されるまで普及している。
この間エアバッグが作動した回数はざっと180万回。政府の推計では2620人が命を救われた。実績から見て安全装置の優等生と言ってもよい。こんなエアバッグになぜわざわざスイッチを付けて作動しないようにするのか。
子供の被害が多い
米国のエアバッグは衝突の衝撃を受けると時速320kmの猛速で膨らむ。シートベルトをしない大人でも助かるようにとの配慮からだ。だが、このパワーに打たれて死ぬ人が出始めた。政府の調査によるとこれまで87人が死亡している。しかも過半の49人までが子供で、多くが十数kmの低速走行中の衝撃で作動した結果だ。エアバッグ作動の全体の回数から見れぱきわめて少ない死亡率放だが、「エアバッグさえ付いていなければ」との批判が一斉に噴き出し、消費者はエアバッグは救命装置なのか凶器なのかと、とまどった。
事故の状況を見ると、死亡した子供49人中、12人は助手席で後ろ向きに装着したチャイルドシートにいた。34人はシートベルトをせずに助手席に、3人は正しくシートベルトをせずに助手席にいた。
また、死亡した成人38人中35人がドライバーで、24人はシートベルトなし。13人が身長155cm以下の女性だった。
こういった事故状況からいくつかの点が指摘されている。まず、子供はチャイルドシートに座っていても、またシートベルトをしていても助手席は危険。後部座席にチャイルドシートで乗るのがいちばん安全。ドライバーについてはシートベルトをきちんと着けていることが何より肝心。また、ハンドルのエアバッグカバーと胸部の問を少なくとも10インチ(25.4cm)以上離して座らないと、膨張途中のエアバッグに強打されるおそれがある、等々だ。
ところで今回の新規則で、スイッチの取り付けが認められるのは、何らかの理由で危険が避けられないと判断された人に限られる。たとえば、日頃カープール(環境対策としての相乗り)を実践していて助手席に子供を乗せざるを得ない、とか、後部座席がない車を運転している、あるいは耳の病気でエアバッグがバンと膨らむ晋に耐えられない、背が低くてハンドルに近く座らざるを得ない、といった人たちだ。これについて各自動車メーカーと官民合同の組織が、啓蒙活動を展開している。「本当にスイッチが必要な人はごくわずか。大部分の人はシートベルトさえきちんとしていればエアバッグは間違いなく命を助けてくれるのでスイッチは不要。そして子供は助手席でなく後郡座席に」