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Update : Feb.29.2000

雑 文


更新する根性がないので、腹いせに雑文でも書くことにした.。
 

▼ 日産はアメリカ軽視?

[Aug.10.2000]

 10年ほど前、日本車の米国仕様車と日本仕様車との“安全格差”が話題になったことがあった。 米国仕様車のドア内部にはサイドインパクトビームが装着されているのに日本仕様車にはそれがなかったのだ。 これは単に米国の法規によるものではあったが、日本車の国内ユーザーの中には、自分たちが米国ユーザーに比べて軽視されていると不満をもった人もいたという。

 しかし最近は、日本国内を重視し米国を軽視した日本車メーカーもあるようだ。

 2000年春に公表された日本のフルラップ衝突試験で大量の「AAA」を獲得し、広告にも大いに活用している日産であるが、米国のオフセット衝突試験の結果は、日本のそれと比べて重要ではないらしい。

車名 \ 評価 Ovreall Structure/safety cage
日産 アルティマ (2000年型) Marginal Marginal
トヨタ カムリ (1997-2000年型) Good Good

 日本国内において1996年1月から“GOA”の呼称を始めたトヨタと、その後を追うようにして1996年5月から“ゾーンボディ”の呼称を始めた日産。
 米国において1997年型のトヨタ カムリは高い評価を得ている一方で、2000年型の日産 アルティマ(―そう、2000年型だ!―)は悲惨な結果になっている。

 2000年に実施される日本の衝突テストでは、ようやくオフセット衝突試験が行われるらしい。 果たして日産(や、その他のメーカー)の対応に変化は起きるのか? 今後、日本国内の日産車がマイナーチェンジした場合は重量の変化に注意しよう。 ホンダ・ロゴみたいに50kgぐらい重くなったりして・・・。

P.S. 古いクルマだが、2代目インフィニティQ45(日本名シーマ)は超悲惨だ。 もうすぐデビューする3代目Q45は、果たして?!

 

▼ アルファベット評価の危うさ

[Jun.06.2000]

 現在までの日本の衝突テストにおける「アルファベット評価」において最高の「AAA」であるが、初回のテスト(1996年公表)では「AAA」や「AA」はなく、「A」が最高の評価であった(fig.1)。 そしてテストされたクルマの大部分が「A」評価であった。
 2回目のテスト(1997年公表)からは評価方法に「AAA」が登場した(fig.2)のだが、雑誌などで読んだところによると『テスト結果が「A」ばかりでは区別がつきにくい』という単純な理由で、「A」の範囲を適当に分割して「AAA」や「AA」が設けられたという事らしい。


【fig.1】 初回の評価方法

【fig.2】 2回目以降の評価方法

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 ところで現状の「アルファベット評価」ではHIC(頭部障害値)と胸Gの2値と境界値を元にして評価付けがなされているのだが、それらの値が境界値付近にある場合は「アルファベット評価」の信頼性は、ずいぶんと危ういものになってしまう。


【fig.3】 頼りない評価の例 (1)

【fig.4】 頼りない評価の例 (2)

 1つめの例は上図の左側(fig.3)。 「AAA」と「AA」の2つの点があるが、グラフの原点(ゼロの点)からの距離が近いのは「AA」の方である。 より優れていると評価すべきは「AAA」の方なのか、それとも「AA」の方なのか?
 2つめの例は上図の右側(fig.4)。 「AA」と「A」の2つの点があるが、「A」よりも優秀であるはずの「AA」は、越えてはならないHIC=1000に迫らんばかりである。 もちろん1つ目の例の内容も含んでおり、危険性が高い領域である「B」に迫る値の「AA」が、「B」から充分に離れた「A」よりも優秀であるかのような評価が下されている。

 果たして2つの値を関連付ける事(この場合は単純なベクトル和)が正しいのか、それとも別々に扱うほうが正しいのかは、実のところ、これを書いている私にはわからない。 不幸なことに、学術的な根拠となるものも読んだ事はない(そもそも、探して読もうという行動さえもしていないのだが…)。
 しかしながら、【仮面ライダー1号に胸だけを“44”でライダーキックされる】のと、【仮面ライダー1号&2号に胸と頭をそれぞれ“44”と“499”でダブルライダーキックされる】事とが双方とも同じ「AAA」の身体的ダメージでしかないという評価を下すような現状の「アルファベット評価」が正しいものだとは、私には到底思えないのである。

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 下図(fig.5)は、ずいぶん前の雑誌に載っていた米国NHTSAの★による5段階評価(赤い線)を、日本のアルファベット評価に重ねてみたものである(※あまり正確な図ではない)


【fig.5】 米国NHTSAの★評価

 米国NHTSAの方では、HICと胸Gとの2つの値を関連付けて評価している。
 こちらの評価方法で前述の2つの例について見てみると、1つ目の例では「AAA」と「AA」は「★★★★」と「★★★★★」に優劣の順序が逆転し、2つ目の例では「AA」と「A」は「★★★」と「★★★★」に優劣の順序が逆転する。

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 頭部と胸部の計測値のみを評価対象とし、下肢障害やキャビンの変形については対象外の危うい「アルファベット評価」であるが、それに加えて評価の区分方法に関しても危うい。

 このような危うい評価方法のテストで「AAA」をたくさん取ったなどと浮かれて、2000年春に新聞の全面広告を出したり派手にTVCMを出した日産自動車だが、これもまた危うい。 もののわかったメーカーならテストの評価方法の適正化や改善を促すべく行動すべきであり、このようなテストにおもねって派手な宣伝などするべきではない。

 念を押しておくが、テストの評価方法の適正化や改善は一部のメーカーの利益を目指すものではなく、自動車を購入する我々ユーザー全体の利益を目指して行うべきものである事を忘れてはならない。

 

▼ コンパチビリティ (compatibility)

[Jul.11.1999]

 「コンパチビリティ」。 それは、ベンツが自社のクルマの衝突安全性に関する思想の一つをあらわす言葉で「共存性」とでも訳せばいいだろうか。 道路上には大小さまざまなクルマが走っているが、大きくて重いクルマと小さくて軽いクルマとが衝突した場合は小さい方のクルマが不利なので、小さい方のクルマを保護するために大きい方のクルマを潰れやすく作る。 それがコンパチビリティである。 言い換えれば「クラッシャブルゾーンとは本来は自車の乗員を保護するのが目的だが、大きくて寸法に余裕のあるクルマは相手のためのクラッシャブルゾーンも設定してあげるべきである」というありがたい考えである。
 ベンツのCクラスやEクラスの社外オフセットクラッシュテストの評価はあまり良くないが、それらのクルマについて悪い評価を書こうものならベンツの説明員がすっ飛んできて、このコンパチビリティについての説明(説得?)をしてくれるらしい。

 ところで、この「コンパチビリティ」だが、果たしてベンツは何に対して、あるいはどのようなレベルのクルマへのコンパチビリティを保とうとしているのだろうう? 例えばトラバントや1990年代前半のホンダ車や日本の軽自動車に対してもコンパチビリティを保ってくれるのだろうか? 私が今まで幾つかの雑誌などを読んだ限りでは、ベンツが想定しているコンパチビリティのレベルについての説明はもちろん、雑誌記者や評論家による問いかけさえも見た覚えがない。
 「説明しろ」と言ってみたところで『わが社のコンパチビリティは衝突安全相互強度シンクロ率70%±5に設定してあります』などと一言で説明できるものではないのでレベルの説明を行うのは現実としては難しいと思うが、今の状態では(私は)考え方には共鳴するものの、それが有効に実現されているとは思っていない(悪く言えば「言い逃れ」に見えてしまっている)。

 ・・・とか何とか思っていたら、ベンツのMクラスが米国IIHSの64km/hオフセットクラッシュテスト(1999.07公表)で優秀な成績をおさめた。 過去にEクラスもテストが行われているが、衝突後の側面写真でキャビンの形状を見比べるとMクラスはEクラスよりも変形の度合いは遥かに少なく、新しいMクラスの頑強ぶりが窺い知れる。
 ちなみにMクラスの重量は日本仕様で1970〜2020kgもある。 1510〜1660kgのEクラスより400kgほど重くかつ頑丈なMクラスが、EクラスやCクラス(ついでに、その他もろもろのクルマたち)と衝突した場合はどのような結果となるだろうか? なにはともあれMクラスのコンパチビリティについてベンツから何か説明がなされるのか、それともこの種のクルマは対象外なのか、とても興味深い。

トラバント】 → http://www.trabi.de/
 旧東ドイツの“国民車”で、進化が止まったまま長い間作りつづけられていた。 ボディはガラス繊維の代わりに木材繊維を使ったFRPの一種で作られているのだが「ボール紙でできている」と表現される事もある。 ドイツの壁が崩壊した後はアウトバーンに出てきたトラバントが西側のクルマと衝突した時の悲惨な姿が悲哀をさそったそうだが、果たしてベンツのコンパチビリティの対象にトラバントは入っているのだろうか?

【追加 - Mar.31.2001】
 マイナーチェンジが行われたベンツEクラスは1997-2000年モデル2000年以降モデルの2つがテストされており、後者は成績が向上している。
 成績が悪かった前者の時には「コンパチビリティのため」と強固に主張していたベンツであったが、果たしてマイナーチェンジ前とマイナーチェンジ後のEクラス同士の間にコンパチビリティは成り立つのだろうか?

 
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