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Update : Sep.03.2003

西部警察ロケ事故解説(仮)

2003年8月12日 14時22分。 TVドラマ「西部警察2003」のロケ現場で、俳優の池田 努さん(24)が運転する自動車が見物客の列に突入、5人が足の骨を折るなどの重軽傷を負う事故が発生した。

当ページは、TV・新聞・WEBサイトでのニュースや映像などを元として事故の状況などを解説し、「夏休みの自由研究」とするものである(・・・って、小学生の宿題か?! )。

■ 事故現場の状況

 事故が発生したロケ現場は、名古屋市内のスーパーオートバックス ・名古屋ベイ店の駐車場。
 覆面パトカーという設定の2台の自動車が、連絡を受けてピットから発進していくシーンの撮影時に、事故が発生した。

 撮影に使用された自動車は、イギリスのTVR社のスポーツカー、タモーラ(赤色)とタスカン(オレンジ色)の2台。
 この2台の提供元は、名古屋の輸入自動車会社のオートトレーディング。 他にもエリーゼやブラバスなどを撮影用に提供している。
 2台ともドライバーは俳優で、スタントマン等のプロドライバーは用いられなかった。

 駐車スペースは3列あり、500〜600人いたとされている見物客はピットから一番離れた列に誘導され、撮影を見物していた。 その駐車スペース列にはブロックで囲まれた植え込みがあり、お店の看板の支柱が立っている。
 駐車スペースには一般車が何台か駐車されており、そのうちのスカイライン(青色)とインプレッサ(青色)の2台が、今回の事故に関係する事となった。

 衝突時の映像では、車内でドライバーの上体が前方に動いて後方に戻る様子が薄っすらと確認できる。 これより、ドライバーはシートベルトを装着していたと思われる。

■ 事故車両の「TVRタスカン」

 TVRタスカンは 英国製のスポーツカーで、駆動方式はFR。 今の時代においてトラクションコントロールどころかABSさえも装備しない、プリミティブで硬派なマシンだ。 もちろんシフトはMTである。

車名 今回の車体色 全長×全幅×全高 [mm] ホイールベース [mm] 車重 [kg] 総排気量 [cc] 最高出力 [HP]
タスカン オレンジ 4235×1810×1200 2361 1100 3,605 350
タモーラ 3925×1715×1204 2361 1060 3,605 350

 タスカンは、僅か1100kgの車重に3605cc・350馬力のエンジンを搭載しており、パワー・ウエイトレシオは3.14kg/PSに過ぎない。 ハイパワーなスポーツカーは他にもあるが、現代のそれらは車重が充分に重いのでパワー・ウエイトレシオで劣っていたり、より強力なエンジンを搭載しているがトラクションコントロールなどで“保護”されていたりする場合が多い。  スポーツカーの中にあっても、タスカンは、かなり過激な部類のマシンであると言えよう。
 また、1100kgという車重は、事故発生当時のトヨタ車で言えばカローラ・セダンの1800cc LUXEL (1090kg)が近い。 その車重を、2倍の総排気量・2.5倍の最高出力のエンジンで走らせるというのだから、パワーをかける際には慎重さや技術を要する事は想像に難くない。

 なお、上位グレードとして3996cc・400馬力のタスカンSもある。 これは車体後部の形状が異なる事で識別できるため、今回の事故のモデルではない。

■ 事故の概要

 ピットに駐車されている2台のTVR、タモーラ(赤色)とタスカン(オレンジ色)。 まずタモーラが発進し、それを追ってタスカンが発進した。

 ピット内に斜めに駐車していたタモーラは、前輪を左に切って発進。 その後は駐車場を斜めに横切る形で走行し、スカイラインとインプレッサの間を走り去っていった (図1のA〜F)。

 一方、 ピット内に真っ直ぐに駐車していたタスカンは、発進してすぐに車体後部を左に振り出した。 カウンターステアで修正するものの、駐車車両のスカイラインと接触。 そのまま見物客がいる方へ突入し、ブロックとインプレッサに衝突して停止した (図1の1〜8)。
 ブロック前付近に居た人の中には、突入したタスカンとブロックにはさまれて、重度の骨折を負った人も居るようである。

 事故の様子は見学者のホームビデオにより撮影されていた。 TVなどで放送されていたものを見る限り、少なくとも2種類が存在している。 そのうちの1種類は、撮影者自身が負傷している可能性が高い。
 なお、ビデオカメラがタモーラを追っている間、タスカンが映っていなかったり、タスカンがタモーラに隠れて見えないなど、状況の検分には若干不自由な部分もある。 ロケ隊の撮影したフィルムも 公開していただきたいものだ。

■ 走行の状況(1)

 放送されていたホームビデオの映像より、走行の状況を詳しく解説する。

 注) 下記文中の「クルマが右を向いた」といった表現は、原則として車内のドライバーから見た場合を指している。
   図中(=パソコンの画面上)の向きではないところに注意されたし。


図1:タモーラとタスカンの走行軌跡
(図をクリックすると、別ウインドウで表示できます)

 

TVR タモーラ (赤色)

  1. ピット内に斜め向きに駐車。

  2. ハンドルを左に切って発進し、ハンドルを直進に戻しながらピットから出てくる。
    軽いスキール音が聞こえる。

  3. ハンドルを右に切って向きを変え、また直進に戻す。

  4. おおむね直進状態で通過。

  5. ハンドルを少し右に切り、ゆるい右旋回のコースでスカイラインのテール側を通過。

  6. 何ごともなく走り去る。
     

TVR タスカン (オレンジ色)

  1. ピット内に真っ直ぐに駐車。
    先にスタートしたタモーラがBのあたりに差しかかったときに発進。

  2. ピットから少し出たあたりで、クルマが急に右方向に向きを変えている。
    また、1回目のスキール音が聞こえる。
    これより、ハンドルを右に切ったと共にパワーをかけ過ぎて(=アクセルを踏みすぎて)しまい、後輪が左にテールスライドしたと思われる。 また、スキール音は後輪から発生しているようである。

  3. 前輪を左に向けた状態で右に旋回、すなわちカウンターステアをあてている。
    その量は過大ではなく、そう悪くない。

  4. このあたりで、クルマの姿勢が左ロールから右ロールに変化している。
    また、スキール音が一旦やんでいるので、後輪がグリップを回復したと思われる。
    前輪は軽く左に向いたままなので、ここからクルマは左に旋回を始めている。
    ※この左旋回がドライバーの意図的なものかどうかは不明。 タモーラが辿ったのと同じコースを走ろうと意図した操作の可能性 がある。 一方、意図的でなかった場合は、カウンターステアを戻すタイミングが遅く、いわゆる“オツリ”の処理が上手くできていないと言える。

  5. 前輪の左方向への切れ角が増え出す、すなわち、ドライバーがハンドルを左に切り増している。
    ハンドルを切り増した理由は2つ考えられる。 一つは、4でクルマが左へ旋回を始めたところに正面にスカイラインが見えたので避けようとした。 もう一つは、先行のタモーラ と同じコースを走ろうとした。 ただし、ドライバーの意図がどちらにあったかは不明。
    このあたりから2回目のスキール音が聞こえる。 このスキール音は前輪が横滑りを始めたため発生したものと思われる。
    ※意図しないカウンターステアに慣れていない一般的なドライバーの場合、4でクルマが左に旋回を始めた時に反射的に右に大きくハンドルを切ってしまい、さらに慌てて左に大きくハンドルを切ってしまう、俗に言う「タコ踊り」を始めてしまう事が多い。 その点から 言えば、このドライバーは全くの初心者ではなく幾らかの練習や経験を積んでいたと思われる。

  6. 前輪が大きく左に切れている。 しかし、その割にはクルマはあまり曲がっていない。 前輪が大きく横滑りをしている、いわゆる強アンダーステア状態に陥っている。
    なお、 前輪の切れ角の大きさから察するに、最後までハンドルを切ってもがいている状態の可能性もある。
    ※駐車場・横断歩道・センターラインといった白線部分はアスファルトに比べて滑りやすいので、ここが 普通の駐車枠ではなくゼブラゾーンになっていたのは不運であった。

  7. スカイラインと接触。 前輪は左に切れたまま。
    スキール音は接触と共に一旦止まるが、すぐに3回目のスキール音が聞こえ出す。

  8. スキール音と共に左に旋回しながら見物客がいる方へ突入し、ブロックとインプレッサに衝突して停止した。
     

■ 走行の状況(2)

 放送されていたホームビデオの映像より、TVRタスカンの走行時の車速を調べてみる。

 ビデオは1秒間で30コマなので、ポーズ&コマ送りを使用して、路面のペイントを目安に前輪,続いて後輪が通過するのに要するコマ数を数えると、その地点を通過するのに要した概ねの時間を知ることができる。 例えば6コマであれば「6÷30=0.2秒」 となる。
 タスカンのホイールベース(前車軸と後車軸の距離)は2361mmなので、前述の秒数から車速が計算できる。
 例えば6コマ、すなわち0.2秒で2361mmを走行したのであれば、1秒では「2361×(1÷0.2)=11805mm」を走行する。 1時間は3600秒なので、「11805mm×3600=42498000mm=42.498km」すなわち時速42.5kmとなる。


図2:タスカンの走行速度
(図をクリックすると、別ウインドウで表示できます)

 路面の塗装などを頼りに、3つの地点(図2のA〜C)で、前輪に続いて後輪が通過するのに要するビデオのコマ数をコマ送りで数える事ができた。
 その結果は、A地点とB地点が「7コマ」すなわち「36.5km/h」,C地点が「8コマ」すなわち「31.9km/h」となった。

地点 コマ数 車速
36.5 km/h
36.5 km/h
31.9 km/h

 なお、1コマ違っただけで10数%も結果が変わってしまう程度の精度しかないので、この値は目安程度にとどめた方が無難である。 しかし、それほどの誤差の事を考慮したとしても30弱〜40km/h程度の範囲に収まるであろう。

 ここから2つの事がわかる。 一つは、(おそらく多くのドライバーにとって)低い領域の速度に過ぎなかった事。 もう一つは、A地点からC地点にかけて殆ど減速していなかった事である。

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